曖昧な
他人への印象というのは、関わりが無くなると更新されない
至極当たり前のことではあるが
例えば、今まで知り合ってきた人々でケンカ別れなど最悪の印象での別れ方をした人の場合
その人はあなたにとっていつまでも「悪人」のままである
逆であれば、良い付き合いをしてきた人が犯罪などを犯したとき
テレビなどで「そんなことをする人では無かったんですが…」のような回答をインタビューでするのを見たことがあると思う
インタビューを受けた人たちの大半の、その人に対する評価は、無難か、良い印象を持ったまま、いわゆる「善人」で止まっている
私の妹の夫について
個人情報をだだ漏れにしても良くないのでざっくり説明したうえで書き進めてみたい
彼は私の同級生の弟である
妹とは同学年
そして何かしら(と、ぼかしておくが)の悪いことをして逮捕歴がある
妹について
妹はバツ2
若い頃から奔放な性格であった(言い換えればギャルとみなせたか)
私はというと生真面目な性格で、大学受験の時期、その奔放な妹が勉強の邪魔に思え、苦々しく思っていた
大学進学を期にようやく離れることになったが
正直なところ、当時は嫌いであった
歳を取りながらお互いライフサイクルを修正していき、家族環境が落ち着いたこともあり、ようやく私自身にも許容できるスペースが生まれた
それは向こうも同じで、少し前から20年ほど失われていた兄妹関係をやり直そうとしている
当然といえば当然であるが、適切な距離感というものが分からず、今でもところどころギクシャクしている
そんな兄妹関係である
もとがそういう関係性の妹と、周囲から伝え聞く妹の夫の過去の悪い噂もあり
当時、時折彼に会うときは半信半疑で接していた
結婚したと聞いた当初は
相手は同級生の弟、田舎の地元ではすぐに情報が回り、誰それから聞いたけど〜と聞かれるたびに良い気はしなかった
相も変わらず妹はちゃらんぽらんで、何度も離婚し、人を見る目がないのだろう
程度に思っており
私は彼とぎこちなく会話をしながら内心彼を毛嫌いしていたと思う
が、そういう私の印象とは裏腹に
実際は子にも恵まれ居を構え、遠方で落ち着いた生活を送っていた
彼も真面目にやっていたようだった
しかし、結婚当初こそ数回会ったもののそれ以降妹家族と会う機会はほとんど無く、私の彼に対する印象が完全にひっくり返るまでの確証を得られないまま時間が過ぎていた
要は私の心の中では「まだちょっと悪人かもしれない」の評価で止まっていた
実際は、彼らが家族を作ってからの波風無い積み重なった時間を見れば
わざわざ直接会って本性を確かめるまでもなく、彼が更生し、妹も年齢相応に落ち着いたのは明らかであったにも関わらず、だ
やはり直接会って会話するなり直接見るなり物理的な刺激を受けないと
人間の心というのは簡単には上書きができないものだ、と自分の心のことながら思っていた
そんな彼だったが、ごく最近亡くなったと連絡を受けた
青天の霹靂である
私は、彼の一生懸命にやっている様を認める機会を失ってしまった
十分な証拠が揃っていたにもかかわらず、私の心の中の彼への評価は固まったままである
直接会って心の中のわだかまりを少しずつ吐露し(自分の心が彼らに)打ち解けることができる機会を、ともすれば向こうが与えてくれる位に思って、放ったらかしにしてきた
なんとも言えない喪失である
とても曖昧な喪失
こんな形でも喪失を体験するのか
別の言葉に言い換えれば、これは後悔、かもしれない
彼が初めて挨拶に来たとき
「兄をご存知ですか?」と聞いてきた
私は身構え、よく覚えているにも関わらず「知らない」と答えた
事前情報の悪さから関わりを持ちたくなかったためだ
その後も彼は顔を合わせるときはいつも妙に礼儀正しくハキハキと挨拶をしていたように覚えている
自分のよろしくない過去があるためか
いつも余計に気張って挨拶していたのだと思う
私と初めて会ったときから既に一生懸命だったんだろうな
本当は妹も決して人を見る目がないわけではなかったと思う
私は、他者に対して、薄々「実は違うかもしれない」と思っていながら、そのままにしているものがいくつかある
今回はそれを修正できないままこうした結果を迎えることになった
よくよく考えて思うのは
こういうタイミングでしか自分の愚かしさに思い至れないということか
後悔先に立たずとは言ったもので
今日は自分の中のなんとも言えない感情を書き留めてみたが
私達はどれほど後悔の無い日々を過ごせていれるだろうか
結局この使い古した言葉に収斂する
もちろん伴侶を突然失ってしまった妹のことが気がかりではある
が、両親もできることはないようで、疎遠な兄は今はそっとしている
私には一切連絡はなかったけど、それどころではないだろうし(ということにしている)
謹んで深い哀悼の意を示します